10W立体声功率放大器(日文),10w power amplifier
关键字:10W立体声功率放大器
本文源自:http://www.geocities.jp/team_zero_three/poweramp3/index.html
"THE THIRD" 10W+10W ステレオアンプの製作
はじめに
またまた作ってしまいました。第3弾。といっても今回は自分用じゃなくて、世話になっている友人に「自作アンプの音を聴けゴルァ!」とは言ってませんが、訊いてみたところ「欲しい!」とのことだったので、サクっと 10W 程度のアンプを作ることにしました。ちなみに5人から「欲しい!」と言われたので5台作ることに...
相変わらず無知の醜態をさらけ出していますが、個人的な備忘録+αということで、怪しい箇所は読み飛ばしてください。
一応書いておきますが、友人にはタダであげています。それは、私なりの実験も少々兼ねているからです。友人には「いるか?」と訊いただけで、直接「実験」などとは言っていませんが、雰囲気でなんとなく察してくれているようです(実際一人には「実験台になってやる」といわれた)。
製作した10W+10Wステレオパワーアンプ。ケースを黒く塗装することで高級感を出すことに成功
概要
出力は 10W+10W をねらいます。今回は大阪日本橋の デジット で主要な部品を揃えました。特筆すべきは、15V-0V 15V-0V 2A のトロイダルトランスです。入口を入ってすぐの真ん中らへんのトランス売り場に置いてあります(在庫があれば)。このトランスはここでしか見たことがありません。値段は 4000 円とちょっと高めですが、明らかにモノラルで 20W、ステレオで 10W+10W クラスの半導体アンプ用です。アンプの大物部品を部品皿にてんこ盛りにして店内を歩き回っていると、何を作ろうとしているのか店員や他の客にバレバレすぎて恥ずかしいです。しかも2日にわけで同じ部品を2台分買ったので店員に顔を覚えられたかも知れません。今年中に少なくともあと3台分は買いに行きますんでよろしくお願いします>店員の方。レジの正面あたりに半導体アンプキットがデモされていますが、このキット用に作られたものを単品でも売っているということのようです。今回はこの 15V-0V 15V-0V 2A のトロイダルトランスを電流増幅段の電源トランスとして使用します。
電圧増幅用電源電圧
電流増幅段の電圧を片側 15V としたので、電圧増幅段の電源は、バイアス電圧のロスを考えて片側 18V とします。18V-0V 18V-0V 40mA の「LH2812」というトランスが売られています。小型なので 2.54[mm] ピッチの基板上に実装できてしまいます。ただ容量が 40mA と小さいため無駄に電流を流さないように注意して回路定数を決定する必要があります。
ショットキーバリアダイオード
電源の整流ダイオードにはショットキーバリアダイオードを使いました。ショットキーバリアダイオードはリカバリ時間が短いのと、一般のダイオードよりも順方向電圧が低いため効率が良さそうです。ショットキーバリアダイオードは汎用整流ダイオードに比べてかなり高価ですが、「デジット」では比較的安く手に入ります。私が行ったとき(2007年12月)は 100V1A 5 本切り売りのものが 200円 でした(型番失念)。電流増幅段の電源用のショットキーバリアダイオードは 100V 3A のものを買いました (200V だったかも、型番・単価失念)。
出力素子
出力は 2SJ200/2SK1529 (MOSFET) を使います。これもデジットで手に入ります。ヒートシンクは型番不明ですが 475 円のものを使いました。電源用のブロックコンデンサは 25V 33000uF を 2 本使います。このブロックコンデンサは直径が 35mm のため φ35 のコンデンサバンドも2つ購入しておきます。上記 15V-0V 15V-0V 2A を整流・平滑すると、15*√2 ~= 21V 程度なので耐圧 25V で大丈夫と思って買いましたが、実際にショットキーバリアダイオードで整流して測定したところ無負荷で 24[V] とギリギリでした。 ([2008/01/20] 動作中に測定したら 21.4[V] 程度でした。)
差動増幅回路用素子
差動増幅器に使っている 2SK389GR と 2SA1349BL は、数年前に サトー電気 で買っておいたものを使いました。が、いま改めて見ると、こんなに高いものでしたっけ...こんな小さな素子が、出力素子と同じくらいの単価になっていますね。このような品種はもう生産終了になっていて、市場に出回っている数で価格が決まるのかもしれません。しかし、私としては、こんなに高い素子をいくつも買うのはちょっと気がひけます。2台目以降は 2SK389GR は 2SK30A で置き換えて、電流値の見直しをしようと思います。今回は電源電圧も低いので、2SA1349BL は 2SA798G (2008/1/25 現在若松通商で 157円/個、こちらは単価がまだ安め)か、2SA872A あたりでも十分使えそうです。気になる素子のバラツキですが、試しに 2SK30A を 100個入りでまとめ買いして調べたところ IDSS は結構近い値になっていて、テスタ上でほぼ同じ値を示す素子もすぐにみつかりました。IDSS は素子のバラツキを知る上での目安でしかないとは思いますが、これくらいなら実用上十分近い特性を持っているのではないかと思います。値段も 2SK30A なら 100 個で 1500円程度だと思います(2SK389GR だと 3個で 1500円くらいしますが)。
ケース
ケースは富士シャーシの「FL-8」というアルミシャーシを使いました。W275×H40×D150、t=1.0です。これも「デジット」で購入しました。底蓋がないため、ケースの上面に全ての部品を固定する必要があります。この辺が製作上の一番の難関ですが、底がないことは逆に通気性を良くし、メンテ性も良い上に安い(1155円)ので採用しました。ゴム足を 10mm×10mm の四角い張り付けるタイプのものを底の4隅に付けます。
その他
せっかく作るので、以前にやらなかったことを少しやってみることにしました:
- すべてディスクリートで組む
- シャーシを塗装する
1号機
というわけで回路図です(クリックで別ウインドウ表示)。
定電圧電源回路
定電圧電源は窪田登司氏の影響を多大に受けています。自分的には、パワー Tr はベース電流をドライブするのが面倒くさいので出力には MOSFET を使おうという寸法です。ツェナーダイオードは RD7.5E (Vz=7.5V)を使っていますが、今改めてデータシートを見たら RD6.2E あたりが温度によるツェナー電圧変化が少なくて良さそうです。ツェナー電圧は流す電流によっても多少変化するので、定電流回路を設けています。ここでは 2SK330Y の IDSS を利用しました。IDSS の実測値 2.3[mA] 程度のものを用いたところ Vz=7.1[V] 程度の電圧が得られました。FET の IDSS は周囲温度で変化しますが、 RD7.5E のデータシートを見ると、数 [mA] 付近のツェナー電圧の変化は少ないように見えます。しかし発生するツェナー電圧自体は素子ごとに多少バラツキがあります。今回は電圧調整用の可変抵抗を設けていないので、2SK330Y や RD7.5E をとっかえひっかえして目的の電圧を得ます。誤差増幅 Tr (2SC1775AE) のベース電圧を決める抵抗の値が変ですが、これは大量に持っている 4.7k の抵抗を 2 本(=9.4k) ないし 3 本(=14.1k) 直列に接続して得ています。
定電圧電源回路のトランス
定電圧電源回路用のトランスは 18V-0V 18V-0V です。真ん中の 18V と 0V をつないでセンタータップとしています。概要のところでも書きましたが、トランスの容量が 40[mA] とかなり小さいため、電圧増幅回路の消費電流に注意する必要があります。定電圧電源は 20V に設定していますが、試しに 40[mA] 消費してみたところ、30[mV] しか低下しなかったのでよしとしました。等価内部抵抗は 30[mV]/40[mA] = 0.75[Ω] でした。([2008/1/20] トランスがかなり発熱するためやはり 18[V] に設定して使った方がよさそうです。)
定電圧電源回路の定数決定
出力電圧は、ツェナー電圧と誤差増幅 Q5 のベース・エミッタ間電圧と誤差増幅 Q5 のベースを分圧している抵抗値(R3 と R5)で決まります。ツェナー電圧と Q5 のベース・エミッタ間電圧で Q5 のベース電位は 8[V] 程度になります。回路図とは少し違いますが、いま R5 に 1[mA] の電流を流すとすると、R5=8k[Ω]です。 Q5 の hFE = 500(ほぼ実測値)とすると、Q5 のベースに流れ込む電流は、Q5 のコレクタに定電流 2.3[mA] が流れていることから 2.3[mA]/500 になりますが、この電流値は R3 と R5 に流れる 1[mA] に対して十分小さいとみなせるので無視します。というより、Q5 のベースに流れ込む電流が無視できるくらいの電流を R5 に流すように設計するわけです。こうして Q5 のベースに流れ込む電流を無視し、 R3 にもほぼ 1[mA] 流れると考えます。R5 にかかる電圧は約 8V なので、あとは R3 の値を決めてやれば R5 と R3 にかかる電圧が決まり、それが出力電位に等しくなります。今回は出力電位を 20V としているため、R5=12k[Ω] にしてやれば、ほぼ 20[V] が得られることになります。
以上の話をまとめると、Q5 のベース電位 Vb によって、R3 と R5 に Vb/R3 の電流 I が流れます。よって出力電圧 Vo は、 Vo = I*R5+I*R3 = (Vb/R3)*R5 + (Vb/R3)*R3 = Vb*(R3+R5)/R3 と求まります。実際の回路では、R5=14.1k, R3=9.4k なので、 Vo = 8*(9.4+14.1)/9.4 = 20[V] となります。 [2008/1/20] 上にも書きましたが、トランスは 18V 40mA なので、18V に設定した方がよいと思います。
NFB 制御
誤差増幅 Tr は、エミッタ接地の反転増幅器として動作します。つまりベース電位が(リップル成分等で)小し上昇すると、コレクタ電位が下がるため、MOSFET から出力される電位も下がります。逆にベース電位が少し下降すると、出力電位は上昇するように動作します。このような負帰還(negative feedback, NFB)制御で出力電位がほぼ一定に保たれます。
発振防止用コンデンサ
NFB 制御なので発振する可能性があります。これを防ぐのが出力にある 220[uF] のコンデンサです。容量を大きくすればするほど発振しにくくなるようですが、あまり大きくしすぎると周波数特性が悪くなりそうです。 220[uF] でも大きいかもしれません。
残留リップル低減のためのコンデンサ
FET に直列に接続されている 47[uF] のコンデンサは、リップル成分をアースへ逃す働きをしているものと思われます。47[uF] が最適かどうかは確認の余地があります(窪田登司氏の回路から拝借した)。
誤差増幅 Tr のベースに接続されている 10[uF] のコンデンサは、出力の残留リップル成分を低減させる効果があり、「安定度や性能を確保するためには絶対に必要なコンデンサ」だそうです(定本トランジスタ回路の設計 p238)。ここは素直に従っておきます。
ノイズ低減のためのコンデンサ
ツェナーダイオードの横にある 100[uF] のコンデンサは、ツェナーダイオードから発生する白色雑音を吸収する目的で付けられます。100[uF] が最適かどうかは確認の余地があります(これも窪田登司氏の回路から拝借した)。
定電圧電源回路に関してはこんなところです。
製作した定電圧電源
アンプ回路
アンプ回路は、差動増幅回路2段+電流増幅段1段の構成で、NFB をかけています。実用的なアンプの中でも最も基本的な構成だと思います。例によって出力段は Tr ではなく MOSFET を使っています。この構成では MOSFET は Tr のバイアス回路を熱結合しなくても熱暴走することが(私の知る限り)ないので、製作が Tr よりも楽だと思います。
差動増幅回路について
差動増幅回路は Tr を2個使って構成し、2入力の差分のみを増幅するというその性質から、2つの Tr が共通に持つ非線型性を相殺する効果があるようです。よって差動増幅回路の性能を引き出すためには特性のよく揃った Tr を使う必要があると思います。ただし特性が全く等しい2つの Tr を用意することは不可能で、わずかなバラツキがオフセット電圧やひずみとして出力に現れます。今回は Tr の特性のバラツキが最小になるように、1チップ上に2つのトランジスタが同時に製造された製品を採用しました。1段目の差動増幅回路はデュアル FET (2SK389GR)、2段目は 2SA1349BL (デュアルトランジスタ) で構成しました。今回は2段目の差動増幅回路の動作改良を期待し、負荷を定電流ダイオードで定電流負荷 (3.5[mA]) としていますが、その効果のほどはよくわかりません。
出力のドライブ力?
MOSFET のドライブ力が足りないかもしれません。MOSFET は高い周波数で負荷が重くなるらしいので(未確認)、高域における電気的特性はあまりよくないかもしれません。もっとも、聴いた感じは低域から高域まですばらしい音が出ています。実際に友人に聴かせましたが、「高域の伸びがすばらしい」と言っていました。2号機に MOSFET のドライブ段を追加してみようと思います(あまり必要を感じませんが)。
初段の差動増幅回路
1段目の差動増幅回路に FET を使っていますが、この理由はいまだによくわかっていません。 Tr だとベースに電流が流れるのでその電流が何か悪さをするのではないかという気がしますが、それだと2段目にも Tr を使わずに FET を使うべきということになるような気もします。しかし2段目も FET にすると、今度は裸ゲインの問題が出てきそうです。まーこのへんは自分で実験して身につけるもののような気もします。
初段の差動増幅回路の定電流回路
FET の差動増幅回路の共通ソースは 2SC1775AE 3 石(Q9~Q11)で定電流化されています。この 3 つの Tr は互いに密着させて実装し、接着剤で接着することで、周囲温度がほぼ同じになるようにしています。通常は R19, R20, R23 を全部 3k 程度に統一して、左側と右側に流れる電流をだいたい同じにしてしまうところですが、今回はトランスの容量が小さいため、左側の 2 石(Q9, Q11)に流す電流を 1[mA] 弱に抑え、 Q10 には約 3[mA] 流すようにしています。Q11 は「温度補償用に入れる」という記述をどこかで読んだので入れてあります。Q9 と Q11 でダイオード2個分に相当し、また差動増幅回路の定電流回路にはダイオードを直列に 2 個つないでいる回路を見ますが、なぜ 2 個必要なのかはよくわかってません (1 つで必要十分な気がしますが...)。
配線がほぼ完了したところ
アースの配線とハムノイズ
回路図になるべく従ってアースを配線したところ、ハムノイズが若干聞こえたので、アースの引きまわしを上の回路図とは少し変えましたが、どちらが良かったのかははっきりしませんでした。一応アースの引きまわしを変えた後の方は実用範囲だと思います(→2号機の回路図と「アース配線経路」参照)。
スピーカーに耳を密着させると、まだわずかにハムノイズが聞こえていますが、実用範囲ということで諦めました。実際は、ハムノイズよりも、大きい方のトランスが出す微小なビリビリ音の方が聞こえます。
減衰器
あと、一応、TV などのライン出力を直接接続することを想定して、入力に attenuator (減衰器) を付ました。 2 回路 6 接点のロータリースイッチを使って、-8[dB]/step としています。接点数が多いものは高いのと、抵抗をたくさん直列にはんだ付けするのが面倒だったのでケチりました。-0[dB]、-8[dB]、...、-40[dB] の6段階ですが、アンプ自体のゲインが +20[dB](10倍)なので、結局入力の信号は -20[dB] ~ +20[dB] の範囲で、8[dB] 単位で設定できることになります。
6段階減衰噐 (8dB/step)
減衰噐などと呼んでいますが、その実は A カーブ(ログスケール)の可変抵抗を個別の抵抗で置き換えただけのものです。ただ、計算は結構面倒くさいです。ある接点をアンプの入力に接続したときに、信号入力から接点までの抵抗と接点から GND までの抵抗の分圧がログスケールになるように抵抗値を順に決めていくだけですが、実際には計算値ぴったりの抵抗器は特注でもしないと手に入らないので、実際に手に入る、なるべく計算値に近い抵抗を使って、「この計算値にいちばん近い抵抗はこれだから、この値を使うと次の抵抗の計算値はこうで、実際に使う抵抗値は...」という具合に、目標値に近い dB 値が得られるように一つ一つ抵抗値を決めながら順に求めていきます。計算方法をここに置いておきます。くどい計算方法ですが、6段階くらいならちょろちょろっと計算すればすぐにできてしまいます。段数がもっと増えると、計算プログラムを作りたくなりますね。
実際に attenuator を使ってみた感じですが、8[dB]/step だと、ちょっと音量のステップが大きすぎたかもしれません。まー所詮は6段階なので、ライン出力をつなぐとどうしても小さめの音の次は大きめの音になってしまいます。というわけで本機は、基本的には -0[dB] で使うことを推奨しています。(スマン>友人) 次は 7[dB]/step でいこうかな。 (^_^;
所感
アナログ回路は作り応えがありますね。デジタル回路のような「動けばいい」的発想はできないので、回路の一部分たりとも気を抜くことができません。気を抜けなくても抜けていたりしますが。
2号機
というわけで2号機もサクっと作ってしまいました。サクっと言う割には時間がかかりましたが。
2号機。左利き仕様のため電源スイッチと LED が1号機とは逆になっている
というわけで回路図です(クリックで別ウインドウ表示)。
2号機の回路図
電圧増幅用電源回路
今回は電圧増幅用の電源をほぼ ±18[V] に設定しました(実測値は +18.21[V]と-18.20[V])。 2SJ76/2SK213 のゲートの抵抗が 100 → 1k に変わっていますが、電源は回路図を見ずに作ったので間違えてました。100[Ω] にしたって根拠があるわけじゃないので、まぁいいか。ほとんど影響ないと思ってます。どうせタダであげるアンプだし(←おい)。いま2号機で音楽を聴きながら書いていますが、これまたすばらしい音で鳴ってます。
初段の差動増幅回路
アンプの初段の差動増幅回路には、2SK389GR をやめて 2SK30ATM-GR を2個使いました。一応 IDSS がテスタで同じ値を示す物を使いましたが、実際に動かしてみると動作点(ドレイン抵抗の電圧降下の実測値)が 0.03[V] ほどずれました。回路図ではドレイン抵抗が両方とも 1.5k[Ω] になっていますが、実際は直列に 22[Ω] 程度の抵抗を入れて調整してあります。けど調整をしなくても多分実用上問題ないです。
心配していた、差動増幅回路に使う2素子の特性のズレの音への影響ですが、はっきり言って、出来上がったものを聴いて「あっ、初段の素子の特性がズレている音がする!」とわかるレベルのものではないです。私は、初段に 2SK30ATM-GR を使ったアンプと、2SK389GR を使ったアンプをスイッチで切替えるなどして聴き比べてみても、まったく区別がつかない自信があります(自慢になりませんが)。とにかく 2SK30ATM-GR で、十分実用的で、かつ満足のいく音質が得られたのでよしとします。
Q11 の温度補償効果?
初段の定電流回路で余分に思えたトランジスタ Q11 ですが、これはひょっとして、2段目の差動増幅回路 Q7/Q8 のベース・エミッタ間電圧の温度変化を補償しているのでは?と思いました。
とりあえず Q9 は Q10 のベース・エミッタ間電圧の温度変化を相殺・補償するものとします。 Q11 がない場合、Q7/Q8 周辺の温度が上がると、Q7/Q8 のベース・エミッタ間電圧は減少するため、 Q7/Q8 の 共通エミッタ電位は下がります。よって、共通エミッタ抵抗にかかる電圧が上がるので、電流値が増える方向へ変化します。
ところが、Q11 があると、このベース・エミッタ間電圧が温度上昇とともに減少するので、結果的に Q10 のエミッタ電位は上昇します。すると R23 に流れる電流が増えるので R10/R11 に流れる電流も増えて、それぞれにかかる電圧も増えます。よって、Q7/Q8 の共通エミッタの電位も増える方向に変化します。ということは、減る量+増える量である程度相殺されるはずです(うまいことゼロにはならないと思いますが)。以上の考察から、 Q11 は確かに温度補償効果があると考え、取り除かずに残しました。
2段目の差動増幅回路
2段目の差動増幅回路には、2SA798G を使いました。こちらは 2SA1349BL に比べて耐圧が低く用途が限られるせいか、2SA1349BL よりもかなり安く手に入ります。といっても1個 157 円もしますが。 2SK389GR → 2SK30ATM-GR × 2 の音の違いがわからなかった私では、多分 2SA798G → 2SA872AE × 2 に替えてしまっても音の違いはわからないと思われます。ただ 2SA798G を 10 個も買ってしまったので、3号機も 2SA798G を使うと思います。
出力ドライブ段
1号機で MOSFET のドライブ能力が気になったので、今回は2段目の差動増幅回路の負荷にあった定電流素子を取り去ってしまい、代わりに出力ドライバをいれてみました(2SA1360/2SC3423)。このドライブ段には常時 10[mA] 以上の電流が流れるので、電圧増幅用電源ではなく出力用の電源に接続しています。
残念ながら1号機の環境はもうない(スピーカーごとあげた)ので聴き比べができないのですが、出力ドライバを追加して劇的に音が良くなったという印象はないです。でも少し良くなったかも?まぁその程度です。もっとも、ここ以外にいろんなところを変えているので、出力ドライバの音への影響は分かりっこありません。
それはともかく、2段目の差動増幅回路の負荷の定電流素子を取り去ったことで、電圧増幅用の電源トランスの発熱が減ったのは嬉しいです。設定電圧を正規の 18[V] に下げた効果もあるかもしれませんが、動作中は「あったかい」程度です。
バイアス回路
話が前後しますが、出力ドライバは約 1.2[V] の電圧ロスを生むので、これを考慮して、ドライバ+出力段のバイアス電圧を設定する必要があります。バイアス電圧の発生には Q19: 2N3906 を使っています(このまま一生使わないかもしれないと思った石を敢えてここで採用)。ここで使う石は、単に数[V]の電圧降下を発生するだけで、電流も 10[mA] 流せれば十分なので(今回は最大約 6[mA] 流れます)、こだわりがなければ大概の小信号トランジスタが使えると思います。出力素子の温度補償をする場合は出力素子やヒートシンクに取り付けやすい形状のものを選ぶと良いと思います。
2N3906 は、室温ではベース・エミッタ間電圧が 0.7[V] くらいあるので、0.7[V] で計算しました。ベース・エミッタ間に接続されている抵抗 R28 が 1k[Ω] なので、R28 には 0.7[V] / 1000 = 0.7[mA] の電流が流れます。2N3906 のベースに流れ込む電流は微小なため無視すると、R27 にも 0.7[mA] 流れることになります。 R27 は 6.8k[Ω] なので、R27 の両端には 0.7mA*6800Ω = 4.76[V] の電圧がかかる計算になります。これと Q19 のベースエミッタ間電圧の和 0.7+4.76 = 5.46[V] が、Q19 のエミッタ・コレクタ間に発生する電圧になります。実測値は、ベースに少し電流が流れるので、5.46[V] よりもわずかに低い値になるはずです。今回の実測値は電源 ON 時で約 5.3[V]、動作中は約 5.15[V] でした(トランジスタのベース・エミッタ間電圧は周囲温度が上がると減少する)。
バイアス回路で発生する 5.3[V] という電圧は、MOSFET にアイドリング電流を流すためにかけるもので、これは出力電圧からすると損失になります。バイアストランジスタは、Q7 のコレクタにある+側の出力の下に接続されているので、バイアス電圧はマイナス側の信号の振幅に影響します。なぜマイナス側に影響するようにするのかというと、+側は 2SA798G の共通エミッタ抵抗によってすでに電圧損失があるからです(実測値約1.6[V])。+側はすでにこのロスがあるので、さらに 5.3[V] のロスを加えると、+側が 6.9[V] のロスになってしまい、信号の+側が 18.2[V] - 6.9[V] = 11.3[V] で頭打ちになってしまいます。しかし、10W を出力するにはピーク電圧が片側で約 12.7[V] 必要なので、これだと 10W の出力が取り出せない計算になります。
よってまだロスがないマイナス側を使うわけですが、それでも 18.2 - 5.3 = 12.9[V] と結構ギリギリです。実際は 10W 出ないかもしれません。まー別にいいですけど(まず 10W も出力しないし)。
MOSFET にアイドリング電流を流さなければバイアス電圧をもっと低く設定できるのですが、 MOSFET にはある程度電流を流さないと、直線性の良い領域が使えないことがデータシートから読み取れます(電流が低い領域は特性カーブがきつい)。MOSFET の直線性が良くなるとされる目安の電流値は 200[mA] 程度のようです。今回は 5.3[V] というバイアス電圧を設定しましたが、ドライブ段に 1.2[V] 使うとして、約 4[V] は出力 MOSFET のゲート間にかかります。この電圧が 2SJ200 と 2SK1529 に均等にかかるとすると、それぞれ約 2[V] ずつです。MOSFET のアイドリング電流の実測値は約 220[mA] でした。もっとも、左右のチャンネルでこの値はばらつくので、両方同じに合わせたい場合は R28 を固定抵抗+可変抵抗にして調整します。私は可変抵抗を使うのが嫌だったので(部品の中で経年劣化がいちばん激しそうなので)、意地で固定抵抗で調整しました。
アース配線経路
素子による音の違いよりも重要と感じたのは、やはりアースの配線経路です。ひどい配線経路だとかなりの音量でハムノイズが出ます。あとアースはできるだけ太い線を使うといいと思います。テストで動かしたときに、扱いが楽な細い配線を使っていたのですが、低音がかなり弱かった気がしました。あくまでも気がしただけですが。でもアースは全ての電流が一本に合流して帰っていく線なので、細いと「フン詰まり」になってしまうと思います。
今回もアースの配線経路は試行錯誤しました。が、結局1号機とほぼ同じ経路に行き着きました。2つの電源トランスのセンタータップは互いに接続しています。大きい方のトランスのセンタータップ(「A」と書かれたアース)から短く太い配線でシャーシに落としています。電圧増幅回路のアースは回路図に記したとおり、電源の 0[V] から1~4の順に接続しています。基板に回路を組むとだいたいこうなると思いますが、厳密に同じでなくてもいいと思います。あとスピーカーの 0[V] 端子は「5」のアース点と「A」のセンタータップのところの両方につなぎました。「A」の方は特に必要を感じませんでした(というか不要かもしれません)が、「5」の方には接続しないとハムノイズが大きくなりました。「5」と「A」の両方をスピーカにつなぐとアース配線がループを形成しますが、これによるハムノイズの増加は聞いた感じではわかりませんでした。これが最良の経路かどうかはわかりません(最良ではない気が多分にします)が、ハムノイズは1号機と同程度で、耳をスピーカーのすぐそばまで近づけないと聞こえないレベルです。効率の良いスピーカだと若干聞こえてしまうかもしれません。今回もハムノイズよりかは出力段用の電源トランスの音の方が大きく聞こえます。
その他
R9, C14, C18, C19 は位相補償のためにあり、特に C18 がないと発振します。ブレッドボードで試作回路を組む場合は、接点接続が C 成分を持つようで、これらの位相補償部品がなくても動いてしまうことがありますが、実際にはんだ付けする場合は、これらの部品なしでは確実に発振すると思います。C18 にあたるコンデンサは、1号機では両方の Tr に 100[pF] を付けていましたが、2号機は出力を取り出す側だけに 47[pF] としても安定に動作しています。 C18 は音質に影響しそうな気がするので、これをつけなくてもいいように Cob が 50[pF] くらいの Tr を使うと、外付けの C によって変な音がつきにくくなるのかもしれません(そのかわり Tr の音がつくのでしょうけど)。WEB ページを見ていると、この C18 に相当する位相補償コンデンサには高価なコンデンサ(ディップマイカ)を使う傾向があるのがわかります。というか、オーディオ回路にはとにかく異常に高いコンデンサや抵抗が平然と使われますが、それによる音の違いはあってもごくわずかと私は思っています(高い部品は音がいいという具体的なデータを見たことがないので)。 2SA606/2SC959 はちょうど Cob が 50[pF] 程度で、しかも直線性に優れているということで、金田氏のアンプによく使われていました。そういった事情と 2SA606/2SC959 がもう生産されていないのとで、現在はペーペーの激貧アンプ自作野郎にはちょっと手が出せない、非常に高額な Tr になってしまっています。 2SA606/2SC959 は、なぜか親父がいくつか持っていたので(金田アンプ作ったんか>親父)、私がパクりましたが、hfe が見事に全部バラバラなのでとりあえず使う気はないです。しかし最近の Tr で Cob が 50[pF] もある石ってあるんだろうか...
出力にある 10[Ω] と 1[uH] は、出力端子からスピーカまでの配線の位相補償ですが、その効果がよくわからないため、2号機ではバイパスしています。なくて動くのならなくていいだろう、という判断ですが、発振などの問題があったときのためにバイパスはすぐに取り外せるようにしてあります。細い線でバイパスしているのでまだ少しだけ効いているかもしれません。
あと、出力段用の電源トランスにスピーカーを近づけると電磁干渉を起こしてスピーカーから音が出ます(近くにいると体に悪かったりして...)。なのでアンプから 50[cm] 程度スピーカーを離して使っています。 EMC や VCCI 的には「お話にならない」レベルと思われます。
2号機の裏側。底の塗装のマスキングを怠ったため汚いが、普段見ないのでまぁいいか。
筆者のリスニングルーム(笑)。
ソースは PS、SB-Live!(PC)、iPod Shuffle を比較したところ iPod Shuffle が最良だった。
こんなセッティングでも、まるで異次元へワープしたかと思うくらいの再生が得られる。
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